初めて訪れたとき、イスタンブルの街は暖房のための煤煙でどんよりと曇っていた。寒いのに街角には暇そうにしている男がやたら多くて、道に迷っていると必ずどこからか人が現れ、数人がかりで目的地に連れていってくれた。歩きながら屋台の焼き栗を買ってくれたり、タバコをすすめてくれたり、他人なのにやたら濃密で、ちょっと驚いた。
それから20年。ガスが普及した市内にはもう煤はない。同時に道案内をしてくれるような暇人にも滅多に会わなくなった。スィルケジの裏通りを歩くと、今でもあのときの濃い空間を思い出してちょっと懐かしくなる。ヨーロッパとアジアの狭間にある1000年の都も少しずつ近代化していて、旅人の我が儘と知りつつも残念な気がしてしまうのだ。(絨毯屋の客引きは別の意味で今でも濃密だけどね)。

Photos by Koji Iwama

 
 
 
雨が降ったりやんだりの憂鬱な日。もう引き上げようかと振り向くと、風がどんどん雲を払いのけ、見事な夕焼けが顔をのぞかせた。気まぐれなイスタンブルの春。
カッパドキアの奇岩 トルコ料理は、すごくおいしい。